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2011.01.16 Sun
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親愛なるあなたへ



いつもは照れくさくて
誤魔化してばかりいたことを
あなたに皆 告白します




どこからはじめようか
少し迷うのだけれど




今迄
ふたりの間には
いろんなことがありました
良いことや悪いこと
うれしいことにかなしいこと
たくさん たくさん
ありました

それでも
思い返してみれば
不思議と
良いことやうれしいことしか
浮かんでこないのです




あなたとは
様々のものを見て
色々の話をしましたね

すきなもの
きらいなもの
観たい映画
読みたい本

いつも少しも合わなくて
困ることもあったけれど
その違いを
面白い

思える相手は
あなただけでした




ばかなことで笑って
くだらないことで笑って
つまらないことでも笑う

あなたといると
わたしはいつでも笑ってばかり
これって
とてもすごいことではないでしょうか




あなたと出会ってから
長いようで短い

思っていた付き合いも
もう
両手の指で足りないくらいになりました

その間に
わたしはいくつあなたを知れたでしょうか
そして
あなたはわたしをいくつ知ったでしょうか

きっと
たくさん知っているようで
まだまだ
たくさん知らないのでしょう




それでも 時が
ふたりの上を平等に行き過ぎて

あなたとわたしに
経た歳月の嵩を載せ

ひい ふう みい

数えてみれば
ふたりの
両手両足の指全部を使い切って尚
足りなくなる日が来たとしても

あなたがわたしの
特別であること
それは変わらない事実なのです




だからこそ
あなたがいつだって笑っていられるように
誰よりしあわせで居て欲しい

そう言ったら
あなたはどんな顔をするかしら




そんな
大事なあなたへ

一番伝えたいこと




いつもありがとう
そして
これからもよろしく










 

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2010.10.14 Thu
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秋の風が吹いて
色を変える街並み
そして私も指先から



染まるその色 秋色新色



身も心も染め変えて
変わる私は何色かしら




長き夜の静寂(しじま)
迫る朝の息吹
物憂げに息を吐けば
胸の内
はらはらと散るは
死に色の木の葉



広がるその色 秋色新色



胸に秘めたる想い乗せ
私はもひとつ息を吐く




ひとの心のように
移ろいゆく天気は
その内
澄んだ空を暗ませて
落涙を見せるだろう



滲むその色 秋色新色



曖昧になる輪郭で
私は世界に溶け馴染む





そして私は秋色の
新しき容(かたち)となるだろう








 

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2010.03.06 Sat
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駅のホームの其処彼処
先程から
淡々と繰り返されるアナウンス



――― ・・駅構内において人身事故が発生しました
現在電車の到着が遅れております



周囲には
やれやれといった顔
苛立ったように時計を見る仕草
携帯電話に
謝り
怒り
諦めの言葉を告げる声



わたしは黙りこんで
足元を睨みつける
それでも
電車はいつものように遅れている
赤みの強い橙色の
車体は未だ見えてはこない




その電車に飛び込むと天国にいける




実しやかなそれを
誰が言い出したかはしらない
けれどいつしか聞き慣れていた
アナウンスと同じに
わたしの中にも刻み込まれた事柄



苦しみ
深く思い詰め
悩み
迷った末に
ばらばらの肉片になって
ひとのかたちなど残らなくなっても



見ず知らずの人間に
無感情に
無表情に
不要物として
取り除かれることになっても



最後には
ゴミ袋に纏められ
迷惑
と呼ばれる対象になったとしても
ひとは
天国を目指して電車に飛び込む



どうやら天国というものは
大層素晴らしいところらしい



そう ひとごとのように考えてみる



己以外の全ては皆ひとごとである
慣れ
という流れに乗れば
ひとの死すら
容易く流され
いつしかきれいに忘れ去られる




そうして今日も
顔も名も
しらない誰かが天国へ赴き
わたしはいつも通りに電車を待つ




どちらがより幸福なのか思い巡らす内
なめらかに流れ出すアナウンス




―――・・遅れておりました電車は間もなく到着いたします
到着が遅れて御迷惑をお掛けいたしましたことを
深くお詫び申し上げます



 

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2010.02.09 Tue
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今日 部屋を片付けていたら
あなたからの手紙が出てきました


封を開けると
ほのかに芳るあなたの香り


懐かしくなって
わたしはゆっくりと
読みました



過ぎ去った日々に想いを馳せて
ふと 空の彼方を見渡せば
あの頃のあなたが
どこかで微笑んでいる気がします


自分勝手にも
あなたはいつまでも
あの頃のままであってほしい


そう願うのは
わたしがいつの間にか
変わってしまったからでしょうか



四つ折りの便箋を封筒に戻して
わたしはひとつ溜息を吐いて


あなたの紡いだ言の葉は
今のわたしには眩し過ぎて



ひとりそっと
目を眇めるのです





 

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2010.01.30 Sat
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昨日までの冷たい雨が嘘のように
空は青く晴れ渡っています


どこからともなく
頬を撫でるやさしい風が吹き
降り注ぐおだやかな日差しの下
遠くで雲雀の鳴く声がします


もう 春も近いのでしょう


そういえば あなたは
春がくるのを
誰より待ち望んでいましたね


部屋の窓から
寒々と揺れる庭の木々を眺めては
早く春になればいい と
子供のように繰り返していましたね


 
ねえ あなたは知っていましたか
しあわせは死ぬ ということを



花が散るように そっと
星が瞬くように 静かに
自ら その息を止めて


昔から長くは続かないというでしょう?


しあわせは
壊れるのでも 消えるのでもなく
死ぬのです
その からっぽのなきがらを遺して



ねえ 知っていましたか



せっかちなあなたは
春にはまだ早いというのに
今日
ひとりで先に逝きました


残される
わたしの気持ちも知らないで
まるで眠っているみたいに
穏やかな顔をしていましたね



そうして今日
あなたと共に
わたしのしあわせも死んだのです



残酷な時のように
戻らぬ命のように
死んだしあわせは二度と還らないのを
あなたは知っていましたか


もうすぐわたしも
死んだしあわせと同じように
からっぽのぬけがらになって
ここに残るでしょう


こうしてわたしは
しあわせのように死んでいくのです





この 穏やかな日差しの下で






 

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