駅のホームの其処彼処
先程から
淡々と繰り返されるアナウンス
――― ・・駅構内において人身事故が発生しました
現在電車の到着が遅れております
周囲には
やれやれといった顔
苛立ったように時計を見る仕草
携帯電話に
謝り
怒り
諦めの言葉を告げる声
わたしは黙りこんで
足元を睨みつける
それでも
電車はいつものように遅れている
赤みの強い橙色の
車体は未だ見えてはこない
その電車に飛び込むと天国にいける
実しやかなそれを
誰が言い出したかはしらない
けれどいつしか聞き慣れていた
アナウンスと同じに
わたしの中にも刻み込まれた事柄
苦しみ
深く思い詰め
悩み
迷った末に
ばらばらの肉片になって
ひとのかたちなど残らなくなっても
見ず知らずの人間に
無感情に
無表情に
不要物として
取り除かれることになっても
最後には
ゴミ袋に纏められ
迷惑
と呼ばれる対象になったとしても
ひとは
天国を目指して電車に飛び込む
どうやら天国というものは
大層素晴らしいところらしい
そう ひとごとのように考えてみる
己以外の全ては皆ひとごとである
慣れ
という流れに乗れば
ひとの死すら
容易く流され
いつしかきれいに忘れ去られる
そうして今日も
顔も名も
しらない誰かが天国へ赴き
わたしはいつも通りに電車を待つ
どちらがより幸福なのか思い巡らす内
なめらかに流れ出すアナウンス
―――・・遅れておりました電車は間もなく到着いたします
到着が遅れて御迷惑をお掛けいたしましたことを
深くお詫び申し上げます