伝えておくれ
あの人に


わたしはもう
大丈夫だと




伝えておくれ
あの人に


わたしは今
笑えていると




伝えておくれ
あの人に


あなたもどうか
幸せであれと





どうか　どうか
伝えておくれ










 

衝動なんてものに
理性や
正義を
求めるなんて
愚かなこと


愛を
理屈として
捉えるのと同じくらい
馬鹿げているわ


正しい行いではない
頭では
理解しても
抑え切れない


貴方だけに向かう
わたしの情動




それは
衝動
という名の






 

よく働く人でした

９０歳になっても
畑仕事や料理を
自分でする人でした

裁縫も得意でした

働きものの手をしていて
若い頃からずっと着けていた
結婚指輪が取れなくなるくらい
節の太い指をしていました



四つの時代を生き抜いて
苦しい目にも
悲しい目にも
遭ってきただろうに
それでも
最期はとても
穏やかな顔でした



赤ちゃんが
母親のお腹の中で
握りしめている両手には
沢山の幸せが詰まっている
と聞いたから

手を合わせられないほど
ぎゅっと握られた
その両手には
この世にある幸せが
沢山詰まっていたのでしょう



普段から
化粧っけなどない人でしたが
旅支度にと
綺麗にお化粧してもらい
白無垢にも似たおべべ着て
まるで本当は眠っているみたいな顔で
花に囲まれていました



１０２歳には見えないね
皆に言われて
わたしはすこし
嬉しかった




最期の最後まで
良い孫ではなくて
ごめんなさい



道行
どうか
気を付けて



いつか
私も
行く道です



また
どこかで
会いましょう








 

この
身の内に宿るのは
激しい情熱
ではないけれど




穏やかな熱を
胸に秘め
わたしは
あなたを想っていよう




伝わらなくても
届かなくても




ただ
ひっそりと
想っていよう








 

コーヒーなんて苦いだけ
お酒なんて不味いだけ



そう
むくれていた頃の
わたしと
同じ顔をしているね



大きくなったら
淋しさが
消えてなくなるなんて
嘘



いつの間にか
慣れてしまうんだよ



不思議とね



今は
好ましい
とさえ
思うんだ